㉔ 大柄と小柄、どちらが有利?……平坦路の場合。

自転車の高速走行では、身長、体重と出力グラフ抵抗のほとんどを空気抵抗が占めていることはよく知られています。この空気抵抗は前面面積に比例して増減するために、大柄な選手は不利だと思うかもしれません。しかし、30年ほど前、ドイツが東西に分かれていたころ、圧倒的な強さを見せていた東ドイツのスプリント選手は身長190cmを超える巨漢ぞろいでした。それを見て、身体が大きい=力が強い、と短絡的に思われていたところもあるのですが、実は逆で、速度が同じなら身体が大きくなるほど体重1kgあたりの必要出力は小さくなり、しかも速度が上がるほどこれが顕著になるために、結果としてスプリント選手が巨漢ぞろいになったのです。
そこで身長160cm:A、175cm:B、190cm:Cの3人のサイクリストについて、秒速10m/sec(36km/h)と18m/sec(64.8km/h)での体重1kgあたりの出力(W)を比べてみます。

3人の体型が相似形であるとして、Bの体重・前面面積:68kg・0.34m2を基準にすると、A:52kg・0.28m2、C:87kg・0.4km2になります。ピストですから、自転車の重量をA:7kg、B:7.3kg、C:7.6kg、転がり抵抗係数を0.004とします。
秒速10m/sec(36km/h)での体重1kgあたり出力は、A:3.4W/kg、B:3.2W/kg、C:3.0W/kgで、大きな違いはありません。
しかし、秒速18m/sec(64.8km/h)になると、A:18.1W/kg、B:16.8W/kg、C:15.5W/kgと違いが大きくなります(グラフ)。
その理由は、(高さ×幅)という二次元数値の前面面積を使って算出した出力を、(高さ×幅×厚み)という三次元数値の体重で割ることになるからです。
そこで、今度は逆に、Aの1kgあたりの出力をCの15.5W/kgと同じにした場合の速度を計算すると秒速17.4m/secでCよりも0.6m遅く、200mTTではCよりも6.67m遅れてしまいます。筋力は筋肉の断面積に比例して増減しますから、これは小柄な選手は相似形よりも筋肉量の多い「太い脚」を持っていなければ大柄な選手に太刀打ちできないことを示しています。
こうしたことはロード競技でも言え、平坦なTTでは大柄な選手が有利ですし、先頭を引く場合は「風よけ」だけでなく、運動の経済性でも、やはり大柄な選手が有利になります。

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