長いクランクはテコの原理で有利ではあっても、脚の長さ、特に大腿骨の長さに対して無理の無いものでなければなりません。
たとえば、同じペダル踏力でも、170mmクランクはテコの原理で165mmクランクよりもトルクを3%増大させることが出来ます。しかし、プラスのみを生みだせるのは神様だけ。人間のすることはたかが知れていて、プラスを生むと必ずマイナスが生じ、クランクの延長による関節の屈伸幅の増大は筋肉の運動量の増大をもたらし、とくに主稼動筋肉の大臀筋の負担が大きくなります。そのために、長いクランクを使うTTでは腰を前方に移動して股関節の屈伸幅の増大を抑え、トルク増だけを利用することが行われますが、それには数センチという大幅な前方移動が必要です。
2016年ジロの勝者ヴィンチェンツォ・ニバリが最後の最後まで苦戦を強いられたのは、クリス・フルームが175mmのクランクを使っているからと、ニバリがユニオーレスの頃から使い続けてきた172.5mmのクランクを、トレーナーのスロンゴが175mmに変えたところに原因がありました。この場合サドルを5mm前方移動しましたが、その程度の移動では影響は無いに等しく、第19タッパから172.5mmに戻して辛うじて勝利をつかみました。
適正クランク長については、大腿骨の長さを基準にしたプルイット博士やオーシャルテ博士によるもの(表A/B)、股関節からの
脚の長さを基準にしたザーニ博士によるもの(表C)などがありますが、オーシャルテ博士は乗車時の大腿骨の前下がり角度によって、クランク長が適正かどうかを判断する方法も発表しています。
大腿骨の角度からクランク長の適正/不適正を判定する方法:ペダリング時のクルブシの角度で股関節が最も屈曲する位置にペダルが来たときに大腿骨が12゜~15゜前下がりになるクランク長を適正とする。(オーシャルテ)