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自転車のエンジンは人間です。同じ2輪でも自転車がモーターサイクルやスクーターと異なるのは、車体設計によってエンジンが捻出する出力やその持続性に違いが出てくることで、そうした違いを生み出すものは大きく分けると二つあります。一つはフレームのジオメトリー、いまひとつはフレームの剛性です。フレームのジオメトリーはライディングポジションと、フレームの剛性はペダリングと直接関係するからです。しかし、この二つが全てではありません。自転車はレールの上を走る電車などと違って乗り手が操縦しなければならないために、走行安定性と操縦性が問題になり、その良否は主として前輪関係の配置=フロントアラインメントによって左右されます。走行安定性とは、走行中に外力による少々の撹乱があっても自転車自身がそれまでの進路を保持し続け、乗り手の意識的なハンドル操作を必要としない性能で、進路保持性という言葉に置き換えることができます。また、操縦性とは、曲線走行にかかわるもので、自転車が乗り手の思惑通りの走行軌跡をとる性能です。

要するに、フレームのジオメトリーとフレームの剛性が乗り手に完全にマッチし、しかも周到に設計されたフロントアラインメントを備えて、初めて優れた自転車ということが出来るわけです。しかも人間エンジンには大きな個体差がありますから、或る人にとってはベストマッチングな自転車でも、他の人にとってはそうでないことが珍しくなく、というよりもむしろそれが普通です。全ての人にとって優れた一台の自転車というものは存在しないのです。

有限会社 原田製作所  代表 原田 徹朗

design & skill  ~前書きに代えて~

Bicycle club 初代編集長 佐藤晴男

原田さんとの友達づきあいが始まったのは、30年近く前である。半ば道楽で1985年の4月創刊号から6年半ほど手がけた自転車雑誌でトレールをとり上げたところ、電話をいただいたのがそのきっかけだった。

昔、ある日本の二輪メーカーの主任技術者から「わが社のオートバイは、大量生産から生まれたものとしては世界のトップレベルにあると思いますでも、本当に優れたものをつくりだすのは名人芸です」という言葉を聞いたことがある。
技術者の口から「名人芸」という言葉が出てきたことで、僕はこの会社の製品を信用してもいいと思った
自転車の世界も同じで、僕は原田さんを名人だと思っている。だから、この一連のページを書かせていただくことにした。

フレームはダイアモンド型に限るというUCI規定が出来る前のことで、原田さんは新しい形のフレームをつくる際には、原寸大の図面を引いて、それを5mほど離れたところから眺め、納得してから仕事にかかるという話を上記の主任技術者にしたところ、「よく分かります。オートバイも図面を見て美しいと感じたものは、よく走ります。」という言葉が戻ってきた。

オートバイはエンジンも機械だから、エンジンと車体をセットで設計することができる。大量生産に無理が無い。しかし、自転車のエンジンは人間だから、セットで設計して大量生産というわけにはいかない。自転車の大量生産はエンジンを外した車体のみで行うしかない。この場合、エンジンのサイズを想定して車体のサイズを何種類か用意するあたりが、出来ることの限界だろう。
となると、オートバイの「トップレベル」に該当する自転車を大量生産でつくることは無理な話しではないかとも思う。もしエンジンと車体との完璧な適合があったら、それは偶然に過ぎない。

ここで取り上げたことのほとんどは、手がけていた自転車雑誌で25年から30年前に取り上げ済みで、当時のサイクリストにとっては常識の範囲内のことだった。唯一無かったのは、カーボンフォークに関することで、なぜなら、当時のカーボンフレームはモノコックタイプではなく、スチールチューブをカーボンチューブに置き換えてアルミラグでつないだだけのもので、フロントフォークはアルミが定番だったからだ。カーボンフォークは無いも同然で、スチールフォークとアルミフォークの違いというテーマはあっても、スチールフォークとカーボンフォークの違いというテーマは、まだ存在し得なかった。


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