ブレーキをかけると、なぜ自転車が減速したり、止まったりするのでしょうか。順を追うと、下記のようになります。
ブレーキレバーを引く→ブレーキパッドがリム、あるいはディスクを押さえつける→そこに発生する摩擦力によって車輪の周速度が車輪の対地速度(走行速度)よりも遅くなる→車輪接地部にズレの摩擦=制動抵抗が発生するため、車輪の対地速度が遅くなる→最終的に車輪の走行が止まる。
こう見てくると、車輪の対地速度に対する周速度の遅れを大きくすればするほど、言い換えれば、車輪の回転を一気に落とせば制動抵抗が大きくなって制動距離が短くなると思いがちですが、そうではありません。なぜなら、
∗スリップレシオ=(対地速度-周速度)÷対地速度×100%
という法則があり、スリップレシオ、すなわち対地速度に対する周速度の遅れの度合い(%)が自転車の速度の低下を支配しているからで、乾いたコンクリート路面ではスリップレシオが20%ほどになったときに、制動距離が最も短くなります。これは例えば自転車の速度が30km/hの場合、車輪の回転速度を20%減の24km/hと同じにしたときに、制動距離が最も短くなるということです。
最悪は車輪のロックで、スリップレシオが20%ほどのときの65%程度の減速しか得られず、しかも車輪が回転していないために操縦不能に陥ります。
その状況を示しているのがここに示した概念グラフで、縦軸の制動抵抗係数は制動抵抗を軸荷重で割ったもの。スリップレシオが20%ほどのときに制動抵抗係数は最大になり、制動距離が最も短くなることを示しています。
しかし、この場合〔制動抵抗係数=制動抵抗÷軸荷重〕という法則があるために、身体の重いサイクリストが乗った自転車ほど軸荷重が大きくなって制動抵抗係数が小さくなり、制動距離が延びると思うかもしれません。しかし、制動抵抗は重量に比例して増減しますから、サイクリストが重くても軽くても制動抵抗係数、ひいては制動距離も変わらず、結局はスリップレシオが制動距離を決めることになります。
以上から、優れたブレーキとは、急激に車輪の周速度を落とすことが出来るブレーキではなく、思惑通りに周速度をコントロールすることが出来るブレーキであるということになります。